動物の病気 最新情報

2012年5月 3日 木曜日

腹腔内腫瘤の細胞診で独立円形細胞腫瘍と診断された犬の1例

腹腔内腫瘤の細胞診で独立円形細胞腫瘍と診断された犬の1例
水野 景介 ひがしやま動物病院

【はじめに】
 腹腔内腫瘤の細胞診にて独立円形細胞腫瘍と診断され、リンパ腫と卵巣腫瘍の鑑別が必要となった症例に遭遇したのでその概要を報告する。

【症例】
症例はパピオン、12歳、未避妊雌、4.6kg。2週間前より下痢と軟便を繰り返す、便が細くなるという主訴で来院した。
【検査】
身体検査では、触診にて腹腔内腫瘤を触知した。臨床検査において腹部X線検査で左側腎臓の尾側に腫瘤を認めた。超音波検査では直径45mmの嚢胞状腫瘤を認め、また、注腸造影検査では腸管への浸潤は認められなかった。血液生化学検査では異常は認められなかった。追加検査として針吸引による細胞診をエコーガイド下で行った。岐阜大学病理学教室に診断を依頼した結果、独立円形細胞腫瘍と診断された。細胞の形態上はリンパ腫を第一に疑うが、細胞質が豊富で淡明であり、卵巣腫瘍の可能性もあると診断された。
【治療】
細胞診の結果より試験開腹を行い、リンパ腫を疑う場合はツルーカット生検または外科切除を行い、卵巣腫瘍を疑う場合は卵巣子宮全摘出を行うという方針を立てた。試験開腹の結果、手術所見は左側卵巣が腫大した卵巣腫瘍であった。右側の子宮体の一部も腫大していた。腹腔内に明らかな転移病巣は認められなかった。摘出された組織は病理診断を行った。結果として左側卵巣は未分化胚細胞腫、右側の子宮は嚢胞性子宮内膜過形成と診断された。また、腫瘍細胞の増殖は卵巣内に留まっていると診断された。補助療法として、飼い主に無処置かシスプラチンまたはブレオマイシンなどの化学療法を提案した結果、飼い主は無処置を選択した。術後2カ月の検診では再発・転移は認められず、現在で術後6カ月目を経過している。
【考察】
初診時において症状が慢性の下痢であり、細胞診を行ったところ、異型性の強い、円形細胞を検出ため、消化管型リンパ腫を疑った。しかしながら、岐阜大学病理学教室へ細胞診を依頼したところ独立円形細胞腫瘍と診断され、リンパ腫と卵巣腫瘍の鑑別が必要とされた。卵巣腫瘍は細胞質が淡明で比較的特徴的な細胞形態を示すが、一部のリンパ腫と卵巣腫瘍は細胞形態が酷似することがあるので鑑別が必要である。
鑑別の補助診断として、血清エストロゲン、プロゲステロン濃度の測定、犬リンパ系腫瘍クローン性解析などがある。また、避妊手術をしたとされる犬でも卵巣の取り残しから腫瘍が発生することがあるので鑑別には注意が必要である。
 未分化胚細胞腫とは胚細胞(生殖細胞)由来の悪性腫瘍で発生は稀であり、犬の卵巣腫瘍334症例中25頭(7.5%)が未分化胚細胞腫であったという報告がある。未分化胚細胞腫がエストロゲンなどの分泌を起こす機能性腫瘍の場合、異常な発情出血、乳腺過形成、子宮蓄膿症、骨髄形成不全、内分泌性脱毛などの症状が見られる。本症例において、それらの症状は見られなかった。Greenleeらは転移が31頭中5頭で発生し、腹腔内に転移する傾向があると報告している。治療は外科切除が第一選択である。補助的な化学療法の報告はほとんどないが、シスプラシンやブレオマイシンが有効である可能性がある。予後は未分化胚細胞腫3頭の外科単独治療の報告で 13カ月、2年、4年であった。
ヒトにおける未分化胚細胞腫は10~20代の若い女性に発生する傾向が高い。転移の進行度をⅠ~Ⅳまで分類し、Ⅰ期は卵巣から癌が広がっていない状態としている。Ⅰ期の治療として付属器切除術(卵巣腫瘍を含め片側の卵巣と卵管の切除)と大網切除が行われている。転移がないことが確認された場合、化学療法や放射線治療を行わないのが原則である。また、ヒトでは診断における針生検は原則行っていない。動物の場合でも化学療法を選択する判断基準としてこの方法の応用が期待できる。また、卵巣腫瘍の可能性がある場合、針生検の実施は検討の余地がある。補助療法として、抗がん剤の反応が高いとされており、ブレオマイシン、エトポシド、シスプラチンの3剤プロトコールが主流である。生存率は高く、1980年以降抗がん剤を導入することでほとんどの患者が治癒している。
ヒトにおける未分化胚細胞腫の挙動を考慮すると動物の場合でも早期治療できれば根治可能な腫瘍であるかもしれない。

投稿者 ひがしやま動物病院

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