動物の病気 最新情報

2012年5月 5日 土曜日

髄内ピンとキャスト包帯を使用した橈尺骨骨折整復後の骨形成の変化

トピック 2009 中部小動物臨床研究会 年次大会で口頭発表したテーマです。

髄内ピンとキャスト包帯を使用した橈尺骨骨折整復後の骨形成の変化

獣医医療における骨折治療の流れは人医療の発展によって、より強固な内固定法が施されてきたが、近年では骨折の整復に必要とされる外科操作と、骨折部位に本来備わっている治癒力との釣り合いを重視した治療法を提唱する考え方が増えている。そこで我々は橈尺骨骨折の再発症例に対して、髄内ピン、キャスト包帯、海面骨移植で骨折を治療した。結果として、手術後8週間目には骨折部の骨癒合が達成された。その後、患肢への荷重を増やすためにキャスト先端を短くして接地させ、髄内ピンを除去すると骨形成が促進されることが確認された。今後、髄内ピンとギブス除去する最適な時期を検討し、透視装置を使用した髄内ピンによる経皮的な橈尺骨骨折の整復法を採用すれば、より早期の回復と良好な化骨形成が期待できる。

はじめに
小型犬の橈尺骨は大型犬と比較して、周囲軟部組織や血液供給が乏しい。また、骨折の接触面積が小さいため、癒合遅延や癒合不全を起こしやすい。従来の治療法としてキャスト包帯などの外固定は、治療法が簡便で、治療後の骨形成が起こりやすいが、橈尺骨骨折では骨折片が外側の屈筋群が持続的に緊張することから、そのほとんどが外反変形を生じる1。髄内ピンは骨プレートと比較すると特殊な手術器具がいらず、手術操作も容易であるが、剪断負荷または回転負荷に対する抵抗力が乏しく、骨癒合不全などの合併症をおこす場合がある2。骨プレートは十分な固定力と手術後の早期回復が利点であるが、プレートの下の皮質骨に廃用性骨減少症をおこすことがある3。獣医医療における骨折治療の流れは人医療の発展によって、より強固な内固定法が施されてきたが、近年では骨折の整復に必要とされる外科操作と、骨折部位に本来備わっている治癒力との釣り合いを重視した治療法を提唱する考え方が増えている。
本研究では、橈尺骨骨折の再発症例に対して、髄内ピンとキャスト包帯で骨折を整復した。また、骨折接合部には海面骨移植を行った。結果として、手術後のX線検査では、手術前と比較すると患肢の骨密度(X線不透過性)と骨の直径(X線AP像での骨の幅)は減少したが、骨折部の骨癒合は達成された。その後、患肢への荷重を増やすためにキャスト先端を短くして接地させ、髄内ピンを除去すると骨形成が促進されることが確認された。
本研究の目的は、手術後の橈骨と尺骨の骨密度と骨の直径を経時的に観察することで、髄内ピンとキャスト包帯を除去する適正時期を検討するためのものである。

症例および治療方法
症例はパピヨン、7か月齢、♂、体重2.2kg。6か月齢の時、高い所から飛び降り、橈尺骨骨折を起こした。その後、順調に骨癒合した。4ヶ月後、症例は再び30cm程の高さから飛び降り同じ部位を再骨折した。X線検査の結果より、髄内ピンと海綿骨移植による骨折整復と手術後のキャスト包帯を使用する計画を立てた。術前投与として、セファゾリン、硫酸アトロピン、ブプレノルフィン、麻酔導入はプロポフォール、維持はイソフルランを使用した。術中所見として、骨折部は長軸径4.8mmと非常に細くなっており、骨密度が十分でなく骨は脆弱であった。手術は予定通り行い、術後投与としてセファゾリン、ブプレノルフィンを使用した。術後管理として、2週間おきにキャスト包帯の交換とX線検査を行った。X線検査により、骨折部の骨癒合を獣医師が主観的に判断し、キャスト包帯の先端部を適宜に短くし、手術後12週間目で髄内ピンを除去した。

評価方法
手術後の骨形成の変化を検討するために骨密度と骨の直径を計測し、反対側の橈尺骨と比較した。

結果
手術後2~8週間目では、X線検査で患肢の骨密度と骨の直径の減少が観察されたが、8週間目で骨癒合を確認したので、キャスト包帯を手根関節まで短くすると12週間目では骨密度と骨の直径は増加した。この時点で髄内ピンを除去すると16週間目には骨密度と骨の直径は増加した。

考察
本研究の結果として、超小型犬の橈尺骨骨折の再骨折症例を髄内ピンとキャスト包帯を使用して治療することで良好な骨癒合が得られた。
超小型犬の橈尺骨骨折の再骨折は骨折部が細く、化骨形成が十分でないため、骨折部の強度は減少している場合が多い。今回の症例も骨折部が4.8mmと非常に細くなっており、プレートや創外固定では不安定性が生じると判断し、髄内ピンを使用した。本法は、手技が比較的容易で正確な固定ができる手術方法であり、今回の症例も十分な整復が達成できた。しかしながら、骨折部に生じる剪断負荷または回転負荷に対する抵抗力が弱いため、補助としてキャスト包帯で固定した。これにより剪断負荷や回転負荷を減少することができた。
キャスト包帯は永岡らが報告している方法で装着した。このキャスト包帯はグラスファイバーにポリウレタンレジンを含んでおり、水で硬化し、短時間に患肢にフィットするので、骨折部を強固に保護することが可能で、剪断負荷または回転負荷を減少することができる。また、患肢の先端から肩まで巻くことで、キャスト遠位が接地し、キャスト近位に荷重がかかるので、骨折部への荷重が分散できる。キャスト包帯の手技による副手根骨先端や肘突起に起こりやすい重度の圧迫擦過傷は、それらの部位を開窓することで減少させることができる。また、開窓によりキャスト包帯内の乾燥状態が保たれる。非常に軽く、形を自由に作ることができるので患肢を自然な角度に維持することが可能で、キャスト包帯を装着していても自然な接地姿勢がとれる。これらは患肢の早期機能回復に効果がある。髄内ピンによる骨整復の際、骨のアライメントが多少ずれていても、手術後キャスト包帯を湾曲させることでアライメントを修正することができる。しかしながら、装着方法が適切でないと患部の循環障害を起こす可能性があるので注意が必要である4。
今回行った海綿骨移植の有用性は数多く報告されおり、骨髄幹細胞、骨芽細胞やサイトカインを容易に移植できる5。また、海面骨移植が骨癒合を早めれば早期に装置を除去することができ、患肢に荷重が加わることで骨再生をさらに促進することが示唆される。
手術後、経時的にX線検査を評価した結果、患肢に荷重がかかるようにキャスト包帯を短くし、髄内ピンを除去すると骨密度と骨の直径は増加した。wolffは力学的ストレスに対する反応として、必要部分に骨が沈着することを証明している6。今回の結果は、髄内ピンやキャスト包帯などの装置の除去が、骨折部の化骨形成を促進することを示唆する。一方、SchenkとWilleneggerは強固な固定は外仮骨の形成を刺激する生物学的兆候を明らかに除外することを証明した。この報告はプレート固定や今回使用した髄内ピンとキャスト包帯が骨の自然治癒力を抑制していることを示唆するので、骨癒合により骨の強度が十分であれば、早期に固定を除去することで化骨形成が促進されることが予想される。今後の課題として、症例を増し、髄内ピンとキャスト包帯を使用した橈尺骨骨折整復後の骨形成の変化を解析することで、髄内ピンとキャスト包帯を除去する最適な時期を検討する予定である。また、以前我々は、透視装置を使用した髄内ピンによる経皮的な橈尺骨遠位骨幹端骨折の整復法を報告している。この方法を採用すれば、骨折部の周囲血管や軟部組織を温存することができ、本来動物が備えている創傷治癒機転を妨げることがないので、より早期の回復と良好な化骨形成が期待できる。


投稿者 ひがしやま動物病院

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