ひがしやま動物病院

症例報告

猫における嘔吐と乗り物酔い予防のためのセレニアの安全性、薬物動態および効果

2024年04月02日

~猫における嘔吐と乗り物酔い予防のための新規NK-1受容体拮抗薬
酒石酸マロピタント(セレニア)の安全性、薬物動態および効果~

 

セレニアが犬の制吐剤として認可され、数年経ちますが猫で使用した報告が古いですがありましたのでご紹介します。
※ 猫での使用に関しては、各獣医師の判断におまかせしたいと思います。

【参考】新製品「セレニア®」(成分:マロピタント)の作用機序

 

 

【目的】

タキキニンは神経ペプチドの一種であり、哺乳類ではサブスタンスP(SP)、ニューロキニンA、ニューロキニンBが知られている。なかでもSPは、嘔吐に関与する脳幹の孤束核、最後野、迷走神経の背側運動核に高濃度に存在し、NK‐1受容体に高い親和性をもつとされ、その受容体への結合により嘔吐誘発作用のほか様々な生理活性を発揮する。本実験で用いた選択的NK‐1受容体拮抗薬マロピタントは、中枢性、末梢性に作用し嘔吐抑制効果を発揮するイヌ用の動物医薬品として認可された制吐薬である。マロピタントは、イヌの動揺病治療薬としての報告はあるがネコに対しての報告は現在までにない。そこで本研究では、ネコにおけるマロピタントの安全性、薬物動態および嘔吐抑制効果の有効性と乗り物酔いに対する反応性を比較検討する。

 

【実施試験】

マロピタントの安全性、キシラジン投与試験、乗り物酔い試験

 

【結果】

マロピタントの安全性

・バイタルサイン、血液、尿、糞便検査に異常なし。
・剖検にて注射部位の肉眼的な点状病巣、皮下組織の線維増殖が確認された    が、他の異常所見はなく試験終了時まで死亡例はいなかった。
・半減期:13~17時間
・定常状態時の最低血漿中濃度:反復投与7日目に定常状態に到達、最低血中   濃度は薬用量に比例して上昇した。

キシラジン投与試験
・嘔吐抑制作用に有意差あり、嘔吐回数と悪心スコアの減少が確認された。

乗り物酔い試験
マロピタント投与群のほうが悪心傾向にあったが、悪心、レッチングを含めた全体的な事象および悪心スコアは有意な減少を示した。

 

【考察】

■ マロピタント投与にともなう副作用の発現はなく、ネコにおいても安全で有効な制吐剤である。
■ 薬用量0.5~1mg/kg で経口、皮下投与、静脈内投与のどの経路においても1日1回投与
■  半減期13~17時間)で嘔吐抑制効果が期待できる。
■  今回の薬用量は実験環境下で得られたものであり、実症例に対して同様な効果が得られるかは不明なため今後さらなる追加実験の必要性が考えられた。

 

Safety, pharmacokinetics and use of the novel NK-1 receptor antagonist maropitant (CereniaTM)for the prevention of emesis and motion sickness in cats

J. Vet. Pharmacol.Therap. 2008 ;31 220-229